上司には2つのタイプがいます。
それは、褒める上司と、叱ってばかりで褒めない上司です。
この2タイプの上司にはそれぞれ長所と短所がありますが、部下にとって褒める上司と叱ってばかりで褒めない上司のうちどちらが良いのでしょうか?
今回は褒めて伸ばすことについて考えてみたいと思います。
褒めるだけだと失敗を恐れるようになる?
まず、単純に何をやっても褒めるとどうなるでしょうか?
一見部下にとって良さそうに見えます。
しかし、何をやっても褒められるということは2つ問題があって・・・
1つ目は自分の行動が正しいと信じ込んでしまうこと。
自分の行動が正しいと信じてしまうと、その行動が正しくない場合にトラブルが発生してしまうことになります。
他の人の言うこと、特に自分よりも実力が下の人の話を聞かないので、他の人が前もって警告してもそのまま突き進んで失敗してしまうことになるわけです。
そして、トラブルを引き起こし、それでも自分のやり方は間違ってなかったと主張する。
こうなってしまうと、仕事が出来る出来ないの問題ではなく、会社の信頼に関わってしまいます。
ですので、特に実力がない人を褒めることだけでは、うまく人を育てることが出来ません。
逆に自分から行動し、実力を順調に身に付けている人も要注意です。
こういう人は褒められることが多いですが、自分の心の器以上の実力を身に付けてしまうと、自分の心の中に驕りが出てきて、自分の価値観がすべて正しいと信じ込み、それを部下に押し付ける嫌な上司となります。
ですので、初心を忘れずに上司から褒められても自分で自分を咎める気持ちを常に持ち続けることを必ず行い、自分の心に驕りを生じさせないように注意しましょう。
2つ目は上司から褒められる行動をすればいいという考えで仕事をするので、新しいことや失敗を恐れてしまうようになることです。
人は褒められると、自分の行動が正しかったと認識します。
そのため、褒められ続けると自分がやってきたことがすべて成功してきたことだと思ってしまいます。
このタイプの人は褒められることはしっかりやりますが、それ以外のことに関しては叱られるのを恐れているため積極的にやろうとしません。
本来であれば失敗が自分自身を強くするのですが、褒められることばかりが続くとその覚悟を持つことが出来なくなってしまいます。
子供を褒めすぎると失敗を恐れる大人になるということをある脳科学者が話しておられたそうですが、それは大人に対してもある程度正しいように思えます。
何をやっても褒めるだけだと、上司から褒められることだけを考えてズルをしてでも成果を出せばいい、などという考えが出てくるかもしれません。
これは無駄な工夫であり、ズルばかりをして成果を上げても自分の実力を上げることに繋がらず、自分をごまかして仕事をし続けることにもなります。
誠実に仕事をするという仕事にとっての大切な要素も忘れてしまうため、歳を取ると見せかけだけで内容が伴っていない仕事をするようになります。
なので、部下が出したすべての成果に対してなんでも褒めてしまうのは少し考えものです。
叱るだけだとリスクが高いマネジメントになる
反対に何をやっても叱るとどうなるでしょうか?
成果に対して完璧ではないと重箱の隅を突いて悪いところを探して叱る。
成果を出しても、パフォーマンスが完璧ではないと叱る。
少しのミスも許さず、大きなミスをすると恫喝同然の叱り方をする。
考えたくもないですが、自分は実際にこのような上司に当たったことがあります。
しかし、叱るだけだとやはり問題があって、
1つ目は部下のモチベーションが次第に下がってしまうことです。
飴を与えられずに鞭で打たれるだけだと、その上司に対しての忠誠心が下がっていきます。
そのため、あまり上司に認められたいという気持ちが湧いてこなくなり、仕事に対するモチベーションが次第に下がっていきます。
それで仕事の成果が出なくなり、余計に上司から叱られる。
この負のループが発生して、部下は心が疲弊し、最後は心を病んで休職するか、退職してしまうことになります。
これは会社にとって大きなマイナスであり、きちんと接していれば成長していたかもしれない部下を一人失ってしまうことになります。
部下のアラームをきちんと感知してやり方を変えていかなければならないのですが、叱ってばかりの上司はただ厳しくすればいいと思っているため、部下のアラームに鈍感であるか、最悪の場合は無視します。
なので、部下はどんどん弱っていき、最終的に仕事が出来ない状態になってしまうのです。
2つ目は部下が叱られるのを恐れて自分の失敗やミスを隠蔽するようになることです。
失敗するたびに上司から「なんでこんなことをしたんだ!」、「なんで〇〇しなかったんだ!」と詰められると、それが部下に恐怖を植え付けることになってしまいます。
最初は何とか耐えていた部下も、何をやっても叱られることが嫌になり、次第に叱られないように自分の失敗やミスを隠蔽するようになります。
隠蔽した失敗やミスが発覚すると問題が大きくなることになりますが、ここでさらに叱られてしまう。
部下の心の中は「もうこれ以上叱られたくない」の気持ちで一杯となり、さらに失敗やミスを巧みに隠すようになるか、退職を選択してしまうこともあります。
これは部下がすべて悪いわけではなく上司に問題があるのですが、世の中には部下にすべて責任を押し付けて上司はお咎めなしという会社もあります。
そして、部下がきちんと育たない上にすぐに辞めていくので、叱ってばかりのマネジメントが会社の成長を妨げてしまうという大きなデメリットを与えてしまうことになります。
そして、経営者も叱ってばかりの上司もこのことについて全く気が付くことなく、気が付けば付いてきてくれる部下がいなくなり人手不足で困ることになるのです。
3つ目は部署全体の雰囲気が悪くなることです。
叱ってばかりの上司の下で働く部下は叱られたくないので常に上司の顔色を伺いながら仕事をしています。
そして、叱られている人を見ると気分が悪くなります。
「自分も同じ目にあうことがあるかもしれない」
そう考えると嫌になってきます。
楽しく仕事をすることが出来ず、自分から進んで仕事をしても、その仕事について叱られたらやる気が失せます。
みんな叱られたくないため部署全体の雰囲気が恐れや不信感に満ちてしまい、暗い雰囲気が漂うようになります。
責任の押し付け合いが起こり、他人を陥れることも起きるようになってくる。
つまり、一人の叱ってばかりの上司が、その部下全員の人間関係や仕事のやり方をまずいものとし、成果をうまく引き出せない部署にしてしまうのです。
何をやっても褒めないのが分かっていて全力で仕事をする気にはなれないでしょう。
特に業務上必要なことで叱る場合も、叱られることが重なり一切褒められないことで、部下の心を蝕んでいく。
その結果、その部下が心の病になってしまうのであれば、それはその部下にとってパワハラを受けたのと同然となります。
体罰、恫喝、人格否定は論外です。
確かに恐れの心を抱かせることできちんと動いてくれるようになる人はいます。
しかし、あまりにも強い怖れに心を抱かせると長続きしません。
もし長続きしてその会社に馴染んだとしても、その部下が人の上に立つ立場になった時に、自分が上司から受けたことをそのまま部下にやってしまうようになります。
これは最悪であり、部下から慕われることなく、部下がどんどん去っていき、最後は部下がいなくなってしまう原因となります。
叱るだけのマネジメントで一番怖いのはやはり部下が失敗やミスを隠蔽するようになってしまうことですね。
本当はすぐに上司に報告して、上司の判断のもとに対処するのhが一番いいのですが、上司に報告すると「何やってんだ!」、「なんでこんなことをしたんだ!」と言われると、「自分は失敗やミスを最速で伝えたのに何でここまで言われなければならないんだ」と思うでしょう。
これが部下に悪影響を与えて、「何をしても叱られるくらいであれば失敗やミスを隠していた方がいいんじゃないか」という良からぬ気持ちを芽生えさせ、失敗やミスの隠蔽に繋がり、後になって失敗やミスが発覚するという最悪の事態になるわけです。
昭和や平成の前半位までは教師も会社の上司も体罰、恫喝は当たり前でした。
しかし、物理的に手を出したり、過度に恐れを感じさせるのは虐待であり、指導ではありません。
「俺の昔の頃は」などという話はどうでもいい。
昭和の頃にそんなことがあったという話は令和になると役に立たないので、別に聞く必要もない。
今は上司が部下に気を遣わなければならない時代です。
上司に何か問題があると、すぐに退職代行を使われたり、パワハラを受けたと思われたりします。
これをきちんと認識していない古い文化を持つ企業は、今後淘汰されていくようになると思います。
褒めることはモチベーションを上げること、叱ることは間違った判断を正すという使い分けをすること
ここまで話してきた内容を考えると、ただ褒めるだけでも、ただ叱るだけでも、どちらも良くはなさそうです。
部下が全力で頑張り、いい成績を出してくれた時はしっかりと褒める。
この時は、時間を空けずにすぐに褒めることが大切です。
そして、判断ミスや怠慢なことがあった場合はその場で叱ってきちんと注意する(周囲の人に聞かれないよう個別に叱ることが重要です)。
このバランスが取れていることが、上司と部下の間に信頼関係を築くのに必須な条件だと思います。
実力があっていい結果を出す部下の場合、褒めることばかりが続くと油断や慢心でミスをしてしまうことになります。
この心の持ち方を正すのが叱るという行為です。
反対に部下が自分の仕事に自信が持てない人、仕事が出来る人ではない場合、期待した成果が出なくても一所懸命仕事をしてくれたのであれば、きちんと褒める。
そうすることで、もっと上を目指したいという気持ちを部下に持たせることが出来るのです。
会社には色々な人がいます。
早熟で早い段階から活躍してくれる人、奥手で最初は仕事が出来ないけどしっかり育てるととんでもない実力を身に付けること。
この2つのタイプの人を同じ褒め方と叱り方でマネジメントをしてはいけません。
奥手の人は叱られやすく、早熟の人は褒められやすくなります。
早熟の人は評価したくなりますが、早熟の人は若いうちから実力を持っているため、自分の意見が正しいと思い込み、慢心して他の人の言うことを聞かなくなることもあるので、注意深く見る必要があります。
奥手の人は最初は能力が低くて叱られやすいので、どうしてもモチベーションが下がりやすくなります。
叱ることが続いた場合はしっかりとフォローすることが大切で、叱りっぱなしは絶対にやってはいけません。
そうしないと、自分の仕事に対する自信を失い、将来に大きな果実をつける自分の能力を育てることをあきらめてしまいます。
ここまでいろいろと書いてきましたが、まとめると褒めて伸ばすそうとするだけではだめ、叱って伸ばそうとするだけではだめ、バランスを取って部下をマネジメントしていくことが大切だということです。
そして、その基準は全ての部下で一律ではありません。
それぞれの人が活躍しやすいバランスで、褒めると叱るを使い分けて管理することが大切です。
これを実践するためには、部下一人一人の様子をしっかり見て、どんなバランスで褒めると叱るを使い分けて考える必要があります。
もしこれが出来ていない上司は人をマネジメントするという仕事を放棄した職務怠慢な上司であるといえます。
人のマネジメントは人を管理する立場の人には重要な仕事で、絶対に手を抜いてはなりません。
人のマネジメントをおろそかにすると、会社全体のパフォーマンスの低下につながり、会社の業績に影響しますので、甘く見ないようにきちんと褒めると叱るのバランスを考えて人を管理することが大切です。
今回のお話は以上となります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。